ライ麦畑でつかまえてほしかった

卒業式を終え、残された時間はわずかになってしまった。あんなに嬉しかった内定でも、今は仕事が始まるということが死を意味している気がする。職があるということは幸せなことだというのは重々承知だ。だけど、きっと仕事が始まれば私はただのロボットのように、なんの色味もない生活を送り始めるのだ。
そんな今年23歳にもなる女が今更ながら『ライ麦畑でつかまえて』を読んだ。

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

きっかけはサリンジャー氏が亡くなったこと、そして攻殻機動隊笑い男事件に深く関わるものであったからだ。きっと思春期に読めば大きな衝撃をうけたかもしれない。しかし、今の私はホールデンに共感はできるものの、ただ「そう言いたくなる気持ちはわかる」としか言えなくなってしまった。いつまでもモラトリアムに生きているつもりの私であったけど、実はいつの間にかただの大人になってしまっていたのだと実感した。きっとホールデンは嫌がるのだろうけど、私は彼に「幸運を祈る」と言いたくて仕方がない。本来ホールデンのような人間が世の中に溢れているべきだと思う。インチキや嘘をきらい、純粋を好む。そんな人間が私は大好きだし、そんな人間が嫌う人間はこの世から消えてしまえばよいとさえ思う。でもきっと、ホールデンは自分に共感し理解しようとする人間が現れれば、全力で拒否するんだろう。彼は人との繋がりを求めながらも理解は欲していないんじゃないかな。
それにしても、この本を読んでいるといつの間にかホールデンの口調がうつっちまうんだ。← 頭の中でも彼の口調で考えちまう。しまいには世の中の全てを彼の口調で罵倒してやりたくなるんだよ。本当だぜ、誓ってもいい。